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東京高等裁判所 昭和27年(行ナ)14号 判決

原告 レミントン・ランド・インコーポレーテツド

被告 福井商事株式会社

一、主  文

昭和二十六年審判第二二号商標登録取消審判事件について、特許庁が昭和二十七年四月十日になした審決を取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

二、事  実

第一、請求の趣旨

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求めると申し立てた。

第二、請求の原因

原告訴訟代理人は、請求の原因として、次のように述べた。

一、被告は、登録第三五四五三三号の商標権者であるが、原告は、被告の右登録商標が連合国人商標戦後措置令第七条第一項所定の各号に該当するものと思料したので、昭和二十六年一月三十一日被告を相手方として、特許庁に対し、右登録商標取消の審判を請求したところ、(昭和二十六年審判第二二号事件)特許庁は、昭和二十七年四月十日「請求人の申立は成り立たない。」との審決をなし、その謄本は、同月十九日原告に送達せられた。

二、右審決の大要は、次のとおりである。

(一)  被告の前記登録商標は、三重円形輪廓内にタイプライターの図形を表示し、その外周に更に環状の月桂樹模様を配してなり、第五〇類複写紙をその指定商品とし、原告の引用にかかる登録第一二六三〇〇号及び同第二〇六六五五号商標は、いずれも向日葵様図形内に円輪を描きその中央にタイプライターの図形を表わし、その上方に「STANDARD」の文字を、その下方に「REMINGTON」の文字を、各表示し、かつ円輪内上部にこれに添つて「TO SAVE TIME IS TO LENGTHEN LIFE」の文字を附記してなり、前者は、第十七類印字機リボン及び印字機各部をその指定商品とし、後者は、第十八類算数器その他本類に属する商品一切を指定商品とするものであると認定した上、

(二)  被告の商標の指定商品である複写紙と、原告の前記各商標の指定商品とは、商品タイプライターがその使用上多少の関連を有するだけで、その他の商品においては、何等のけん連性もない非類似の商品である。

(三)  また原告の右商標中、タイプライターの図形は、商品タイプライターについては、その商品を表示するため、同業者間において、極めて普通に使用される図形であるから、自他商品のけん別の標識として、特別顕著の要件を具備しない。従つてタイプライターをその指定商品とする引用登録商標は、「RE-MINGTON」の文字を要部としてなり、「レミントン」の称呼及び観念を生ずるものと認めるのが相当である。

原告の引用した前記商標及び登録第九七八四号、同第二七九四二号、第一二四二四四号、同第一九〇〇七七号、同第一九六七〇七号、同第三七四二八二号商標が、アメリカ合衆国及びわが国で登録を受け、「R-EMNGTON」の文字が商品タイプライターについて、原告の商標として、取引者及び需要者の間に広く認識されていることは、原告の主張するとおり、極めて顕著な事実であるが、向日葵様図形内にタイプライターを表示した図形が、単にそれのみで、直ちに請求人を認識させる程度に、図形自体が周知著名となつているという事実は認められない。換言すれば、原告の商標は、「REMINGTON」の文字を以つて周知著名となり、図形は単なる附飾に過ぎないばかりでなく、タイプライターの図形は、商品タイプライターについては、自他商品けん別の標識となす特別顕著の要件を具備しないものであるから、その構成上「タイプライター」の称呼及び観念を生ずる被告の本件登録商標と、「レミントン」の称呼及び観念を以つて取引者及び需要者の間に顕著に認識されている原告の引用商標とは、たとえ商標中の一部を構成するタイプライターの図形において相通ずるところがあるとしても、両者は前述のような特異性と指定商品との関係において、取引上毫も商品の誤認若くは混同を生ぜしめる虞はない。

従つて被告の本件商標は、前記政令第七条第一項に該当しないから、その登録を取り消すことはできない。

三、しかしながら右の審決は、次の理由によつて誤まつている。

(一)  指定商品について、審決は、前述のように、両商標の指定商品は何等のけん連性もない非類似の商品であるとしているが、被告の商標の指定商品である複写紙と、原告の指定商品タイプライターとの間には、恰も親子の関係に似た第一次関連があり、「その他の商品」すなわちリボン等との間には、恰も兄弟の関係に似た第二次的関連があることは明らかである。元来コツピー(複写)がなければタイプ(印書)にならない。およそタイプライターを事務上使用する場合、控ないし副本を数通作製するのは極めて普通であり、これに使用されるのが複写紙であるから、タイプライターと複写紙とは、密接不可分の関係を有し、タイプライターを販売している店は、必ずカーボン紙を販売している。原告が有する前述の登録第一二四二四四号商標も、カーボンペイパーを指定商品とするもので、原告及びその被承継会社は、右商標を使用したカーボン紙を、千九百六年以来世界各国に輸出し、日本へも継続的に輸出販売している。

(二)  次に原告及び被告の両商標を隔離的に観察し、しかも比較的知識程度の低い者を基準として判断すれば、ともに円形図形内にタイプライターの図形のある商標といわねばならず、両者は誤認混同の虞ある関係の商標であることは、あきらかである。原告の商標における「STANDARD」または「TO SAVE TIME IS TO LENGTHEN LIFE」とかの文字は、日本語国の商標としては、ただ横文字が書いてあるというに過ぎないし、「REMINGTON」の文字も、これのみを抜き出し要部とすべきではなく、あくまで図形と文字を一体とする結合した図形商標として観察すべきである。審決は、タイプライターの図形は、商品タイプライターについては、その商品を表示するため、同業者間において極めて普通に使用せられる図形であるといつているが、それは広告図案についていい得ることで、商標としてのことではない。しかもこのタイプライター図形は、原告会社が当年完成していた特定のタイプライターの図形であつて、他の一般タイプライターと区別し得る特別の顕著性を十分に具備している。審決は、「RE-MNGTON」の文字が、タイプライターについて、原告の商標として、取引者及び需要者間に広く認識されていることは極めて顕著な事実であると認めているが、広く世界的に認識されているのは、「REMIN-GTON」の文字だけではなく、本件の引用商標自体が米国、日本国はもとより、世界の主要国においても登録せられ、使用せられ、かつ広く認識されている。

被告の商標もまたこれを分析してタイプライターの称呼を強いて抽出すべきではなく、あくまで輪廓との結合商標であつて、原告及び被告の両商標ともに、円形輪廓図形とタイプライターとの結合商標であつて、誤認混同の虞あることは明白である。この点においても、審決は誤まつている。

(三)  なお被告は、本件の登録第三五四五三三号の商標の外に、(イ)登録第四七〇一三号、(ロ)同第三四七一九二号、(ハ)同第三五四五三四号の商標をも持つていたが、(イ)は本件と同様のタイプライターの図形の上部に、「Remington」の文字をはつきり横書に記載しており、(ロ)及び(ハ)は本件と全く同様のタイプライター及び月桂樹様の輪廓が記載され、かつ、右輪廓内タイプライターの図形の上部に、「REMINGTON」下部に「CARBON」の文字が輪廓に添つて弧状に書かれており、(ロ)は更に右輪廓の上部に“REMIN-GTON”BRAND, TRANSPARENT PENCILUSE, CARBON PAPERの文字が横書きせられ、輪廓の右側に「レミントン印」左側に筆記用複写紙と縦書されている。((ロ)は(イ)の連合商標を着色限定、(ハ)は(イ)及び(ロ)の連合商標として登録されている。)今本件の商標を含めて、これら一連の商標を通観すれば、被告がいかに、世界的に著名である原告の商品と、混同誤認を生ぜしめる不正競争の意図を有するものであるかは、あまりにも歴然たるものがある。右三商標のうち(イ)は、その後被告において更新をしなかつたため消滅し、(ロ)及び(ハ)は、連合国人商標戦後措置令第七条による原告の登録取消の審判請求の結果、取り消された。本件の商標は、右(ロ)及び(ハ)に比し、「REMINGTON」の文字こそないが、原告の前記商標と誤認混同を生ずる虞れあることにおいては、これと全く異ることなく、原告の請求を排斥した審決は、結果において、被告会社の営業の被承継者で福井庄次郎が意図した不正競争を保護した形となつている。

(四)  最後に、原告の右商標は、国内において広く認識せられており、かつ被告の商標登録出願以前から、アメリカ合衆国においてはもとより、日本においても使用されていることは顕著な事であるから、被告の登録商標は、前記政令第七条第一項の要件を具備し、取り消されなければならないことは明白である。

第三、被告の答弁

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却するとの判決を求め、原告主張事実に対し、次のように述べた。

一、原告主張の請求原因一及び二の事実は、争わない。

二、同三について、

(一)  先ず原告の登録第二〇六六五五号商標は、算数器その他の商品を指定商品とするもので、被告の商標の指定商品である複写紙とは関係がないから問題にならない。

(二)  次に登録第一二六三〇〇号商標について、その指定商品自体を表示せるに過ぎないタイプライターの図形は、特別顕著性がなく、タイプライターの図形の下方に表わされた「REMINGTON」の文字がその要部である。そして商標の類否を判定するには、その要部を対比して決定しなければならないから、右原告の商標と、タイプライターとその図形を囲む図形を要部とする被告の商標とは、全然非類似の商標である。

(三)  更にその指定商品について、被告の商標は第五十類複写紙であるのに対し、原告の右(二)に記載した商標は、第十七類印字機及びその各部を指定商品とするものである。右商品のうちタイプライターが、レミントンの商標の下に取引されていることは争わないが、複写紙が原告製造のタイプライターの一つの型の図形から必然的に認識されるという原告の主張には、不合理な点が多い。何となれば、タイプライターは印字を目的とする機械であるのに対し、複写紙はタイプライターに限らず、一般事務用品として、受取書、注文書、納品書その他複写用として広く使用され英文タイプライターに使用する複写紙は九牛の一毛に過ぎず、本件商標の商品と引用のタイプライターとが類似の商品というが如きは、余りにも商品の類否の対照を拡張した不当の主張といわなければならない。しかもタイプライターに使用する複写紙は、一般文房具店で販売するものではなく、英文タイプライターを販売する極めて限られた店舗において取り扱われているに過ぎず、取引上においても、両商標は商品の誤認混同を生じないことは極めて明白である。

(四)  しかのみならず、原告の製造販売するタイプライターの図形は、極めて多種多様であつて本件商標に表わされたタイプライターが、直ちに原告の製造販売のタイプライターを表わしたものであることを断言し得る者は、極めて稀であらう。一般人に取つては、被告の商標は、欧文タイプライターとしてのみ認識せられるに過ぎない。して見れば被告の本件商標は、商品複写紙につき、単に欧文タイプライター印として取引されるもので、この商標によつて原告のタイプライターと商品の誤認混同を生ずることは絶対にない。

第四、(証拠省略)

三、理  由

一、原告主張の請求原因一及び二の事実は、当事者間に争がない。

二、よつて先ず、被告の有する登録第三五四五三三号商標が、原告の有する商標と対比した場合、世人にこれを誤認若くは混同を生ぜしめるおそれがあるかどうかの点を判断する。

審決が適法に認定しているように、被告の前記商標は、細い三重円形のなかにタイプライターの図形を表示し、その外周に更に環状の月桂樹模様の輪廓を附したものであり、原告の幾多引用になる商標のうち、登録第一二六三〇〇号商標は、円形をなす向日葵様図形のなかに円輪を描き、その中央にタイプライターの図形を表示し、その図形の上方に「STANDARD」の文字を、その下方に「REMINGTON」の文字を表示し、かつ円輪内上部に、これに添つて「TO SAVE TIME IS TO LENGTHEN LIFE」の文字を附記して構成されている。(別紙商標参照)

右両商標を対比して認定することができる更に顕著な事実は、被告の登録商標(その成立に争のない甲第十五号証)に表示されたタイプライターの図形と、原告の前記商標(同じく甲第六号証)に表示されたタイプライターの図形とは、厳密に比較すれば多少の相違もあるであらうが、これを一見すれば、殆んど同一とも見られる程酷似したものであつて、しかもそれが今日世上において、普通に使用、販売せられている様式のタイプライターとは著るしく異なり、四本の支柱が外部に、はつきりと現われている。旧式な一見極めて特徴のある様式のものであること及び右タイプライターが、両商標構成の核心をなしていることである。もとより原告の商標には、右タイプライターの図形の外に、前記認定のように「REMINGTON」その他の文字が記載されているが、原告の右商標によつて印象された記憶は、特に全然別個の商標であることを認めさせるに足りる。判り易くはつきりした文字が記載されているならば格別、ただこの文字を取り去つただけで、他は同様に円形の輪廓のなかに殆んど同一とも見られる程に酷似した、一見極めて特徴のある様式のタイプライターの図形が表示されている被告の商標を見たとき、両者が同一であると考えることは、極めてあり得ることといわなければならない。

被告は、タイプライターの図形は、商品タイプライターについては、その商品を表示するものであるばかりでなく、原告の商標中のタイプライターの図形が、果して原告の製造販売にかかるものかどうかは一般人には知り得ないから、特別顕著性がないと主張するが、右タイプライターの図形は、前述のように、商標構成の核心をなし、旧式な一見極めて特徴のあるものであるばかりでなく、その成立に争のない甲第十二号証の一及び三によれば、原告及びその被承継会社は、すくなくとも千九百六年(明治三十九年)以前から、右タイプライターの図形をその構成の中心とする商標を、使用して来たことを認めることができるから、これが原告会社の製造販売にかかるタイプライターを示すと否とを問わず、右図形は、永年の使用により商品タイプライターについても、十分な顕著性を有するものと解すべきであつて、商標の類否の判定に当り、これを看過することは、到底正しい見解とは解されない。

以上の理由により、被告の商標は、原告の商標と対比した場合において、世人にこれと誤認混同を生ぜしめるおそれがないとした審決の理由は、誤まつているものといわなければならない。

三、次ぎに、被告の商標の指定商品が原告が前記商標を使用する商品と同一であり、または原告の取扱に係る商品と誤認若くは混同を生ずるおそれがあるかどうかについて判断する。

原告の前記登録商標が第十七類印字機リボン及び印字機の各部を指定商品とし、被告の登録商標が第五十類複写紙を指定商品としていることは、また審決が適法に認定しているところである。従つて右両商標における指定商品がそのままに同一であるといい得ないことは、右認定によつて明かであるが、前記甲第十二号証の一及び証人柳田良作の証言によれば、タイプライター使用の最大の利益の一が、同時に数通のコピーを作り得ることにあり、複写紙の使用によつてのみこのことが可能であること。これがため原告及びその被承継会社は、タイプライターの製造販売を行うと同時に、タイプライターリボン、複写紙及びタイプライター用紙を販売することを必要とし、すくなくとも千八百九十九年(明治三十二年)以来タイプライターリボン及び複写紙の製造販売を継続して行い、右複写紙についても本件における原告の登録第一二六三〇〇号商標と同一の商標を使用していること及び少くとも千九百十八年(大正七年)以来千九百二十六年(大正十五年)までの間に、合計金一万二千六百十六弗の額に達する右複写紙が、日本へ輸入されたことが認められる。

して見れば、被告が、前記二で認定したような、原告の商標と誤認混同を生じさせるおそれのある登録商標を、その指定商品である複写紙に使用するときは、右商品が、前述の原告の製造販売に係る複写紙と誤認せられるおそれがあるものといわなければならない。

被告は、複写紙の用途は、タイプライター用以外に一般事務用品として広く複写用に使用され、英文タイプライターに使用するものの如きは極めて少量に過ぎないと主張するが、近時タイプライターが漸次普及しつつある実情に鑑み、タイプライター用複写紙使用量は決して少量でないばかりでなく、すでに複写紙がタイプライター用に使用されるものである以上、原告の取り扱う商品と誤認混同することによつて、顧客が被る損害を不問に附することは許されない。

以上の理由により、両商標の指定商品が使用上多少の関連を有するタイプライターを除いては、何等のけん連性もない非類似の商品であるとした審決の理由も、誤まつているものといわなければならない。

四、最後に原告の前記商標が、大正九年六月十日出願、大正十年三月九日登録せられたものであり、また被告の商標が昭和十年二月二十七日出願、昭和十七年十月六日登録せられたものであることは、審決が確定したところであり、右の事実と前記甲第十二号証の一及び三とを綜合すれば、原告の右商標は国内において広く認識されており、かつ、原告は、これを被告の右商標の登録出願以前である千九百六年(明治三十九年)以前から、アメリカ合衆国において使用して来たものであることが認められる。

して見れば、被告の登録商標が連合国人商標戦後措置令第七条第一項に該当しないとして、原告の右登録取消の審判請求を排斥した審決は違法であつて取消を免れない。

よつて原告の請求を認容し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のように判決した。

(裁判官 小堀保 原増司 鈴木勇)

(別紙)

登録第一二六三〇〇号商標

(原告の商標)<省略>

登録第三五四五三三号商標

(被告の商標)<省略>

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